2年ほど前に前歯を差し歯にしてからというもの、どうも取れて取れて仕方がない。相当注意して食事をしているが、それでも取れる。これもまた、不治の病だろうか。(前回参照)
引越しをして遠くなったため、近所のデンタルクリニックに乗り換えた。そこで、新しい担当医師に抜けた前歯の差し歯を見せると「なんだこりゃ」と驚く。土台の歯に差し込むピンの部分が、意味不明に短い。これではいくら接着しても、取れるに決まっている。前の担当医師は、きっと今でもあの地で、圧倒的に取れやすい差し歯を作り続けているのだろう。誰か止めてやってほしい。
差し歯が取れやすい病の元をたどれば、取れやすい差し歯を作ってしまう病の人がいる。ポストに投函できない病の元をたどれば、クライアントがなかなか請求書を送ってくれない病の人がいるのだろう。
友人に相談したところ、その歯科医師に手紙を書くことを提案された。確かに、彼は不器用なだけで、悪意があったわけではない。ネットに書き込んで、無駄な復讐をしたいわけではないのだ。しかし私は、したためたその手紙を、いつまで経ってもポストに投函できない病にかかっている。誰の病気も治らない。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(2019年11月28日更新 / 本紙「新文化」2019年11月21日号掲載)