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第12回 ディストピア書店
ディストピアといえば、小説読みにとっては、文学の魅力的なカテゴリのひとつである。理想郷とはかけ離れた近未来が、空想の絶望ではあっても、現実社会の延長線上にあるように感じてならなかった。そして先日、西の方へ旅に出た際、つ […] -
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第7回 コンプレックスに本
勉強やスポーツができなくて悔しい思いをする、という経験をあまりしないまま10代を過ごした。と言うとまるで自慢のようだけどそうではなくて、いまなお根深く私の性格や言動に影響を及ぼし続けるコンプレックスの話である。 何事 […] -
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第11回 今はどんな気分?
本を自分の手で売るのではなく、「私のオススメはこれです」と選書だけする仕事がどうも苦手だった。遠すぎて見えない賽銭箱に、振りかぶって誰かの大事なものを投げるような後ろめたさがあるのだ。 先日公開された大塚製薬「エクエ […] -
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第10回 エーゾーはエーゾー
こまめに追加注文をかけて、長く平積みを続けている小説の文庫本が、ある日突然、知らない人の顔写真に包まれて納品されるとギョッとする。美しい装画は、ロング帯で大半を隠されていた。別に映画化が決まったから、発注したわけではな […] -
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第6回 光をあてる
小説を、書こうとしたことがある。まずは登場人物を考えようとノートを広げ、いくつかアイデアを練った段階でぴたりとペンが止まった。紙の上とはいえ、過去も未来もあるひとりの人間を現出させるには、もう一度初めから人生をやり直す […] -
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第9回 うろんなはなし
あの、やけに軽いプラスチックケースめ。店頭に陳列している、CDのダミーだ。呼び名からして悪役っぽく、中身が胡乱なところが嫌である。レジで受け取ったそれを見本に、ストックから商品を探すのだが、実際は倍の厚みがあったり、二 […] -
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第8回 そういうことじゃないんだが。
「お1人様1冊限り」と表示している商品を、レジに1冊ずつ何度も持ってくる人がいる。並び直せば生まれ変わって別人になります、という謎設定に付き合う義理はないが、そこまでする人はそれを相当欲しいはずなので、下手に指摘すると […] -
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第5回 CONTINUE?▸YES NO
サァ、ボウケンガハジマリマス。ナマエハナニニシマスカ。 主人公の名前はヒカリ。「ポケットゲーム」と呼ばれるゲーム機(昔のゲームボーイみたいな)をいつも持ち歩いている。そしてタケムラとイシとイクコ。4人はともに中学生で […] -
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第7回 女性専用?
うっかり女性専用車両に駆け込んだ男性は、女性たちに睨まれて当然なのだろうか。周囲が女性ばかりであることに気付くと、気の毒なほど身を縮めていた。 その時の違和感は、山崎ナオコーラさんの『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光 […] -
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第6回 エッセイはこちらです
エッセイって何ですか?なんて書店員がいたら、マジかよー! と頭を抱えるが、私は今、エッセイの棚作りに頭を抱えている。マジで。 今働いている書店には「のんびり読む本」という棚があり、比較的のんびりとしたエッセイはここへ […] -
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第5回 太宰治と嵐
太宰治の「人間失格」は版権が切れているため、複数のバージョンが存在するが、基本的に内容はどれも同じだ。しかし嵐の新作CDは、同じ会社が同じ日に同じタイトルで、初回限定盤の1と2、そして通常盤をリリースするのである。どれ […] -
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第4回 書肆玻璃と光
暖かい空気が動いた気配で目を開けると、すぐそばに友人の顔があった。「あ、ごめん。寝顔見てたらチューしたくなっちゃった」。えーなにそれーと笑い返したいけれど眠すぎて声が出せない。中途半端な笑みを残したまま、また眠りに落ち […] -
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第4回 ラーメンの話ではない
《ラーメンは好きじゃない》とエッセイに綴った作家を、無邪気にラーメン屋に誘う人は、残念ながらその文章を読んでいないのだろう。と思ったら、「とても面白かったです!」なんて絶賛したりする。話を聞けば、どうやら読んだことは本 […] -
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第3回 コスモス書店
「心配するといけないから秘密にしてって頼まれたのだけど」 長期休暇を利用して帰省した私に、母がこそっと耳打ちしてきた。お父さん、救急車で運ばれて入院したんだよ、1週間も。それでね、お酒も煙草もダメだって言われたのに全然 […] -
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第3回 ないないない
1階から6階までの全てが本屋だなんて夢のようである。子どもの頃、休日に父親と八重洲ブックセンターに行って、くまなく棚を見てまわるのが好きだった。つい先日まで、私はその思い出に近い大型書店で働いていたのである。 しかし今は […] -
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第2回 羊水と星
秘密基地は狭ければ狭いほどいい、とは子ども時分のわたしの格言である。 近所の子たちがススキ畑を踏みしめて作り上げた巨大秘密基地の隅っこに、ひとりしゃがむのがやっとの空間を勝手に作って楽しんでいるような子どもだった。 […]