岩渕宏美氏プロフィール
ライター・書評家。元書店員。
失われた屋号を求めて
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失われた屋号を求めて
第49回 新しい季節
休み明けに出社したら、転職のために辞めたYさんから「お世話になりました」の言伝とプレゼントが残されていた。封を開けてみると、鮮やかなオレンジ色の布巾だった。 贈り物は消耗品や食べ物などの消えものがいいと言われるけれど、布 […] -
失われた屋号を求めて
第48回 慣れない靴を履いて
新しい靴が届いた。 私は定期的に古本屋さんへ持っていくことにしている。本棚どころか、もはや床にまで浸食して久しいのだけれど、そんな状態でもある日突然、「あ、古本屋さん行こう」と思い立つ瞬間が来る。 ヒールの太さも高さも革 […] -
失われた屋号を求めて
第47回 古本屋さんへ行こう
みなさんは本棚から増えすぎて溢れた本、どうしてますか。 私は定期的に古本屋さんへ持っていくことにしている。本棚どころか、もはや床にまで浸食して久しいのだけれど、そんな状態でもある日突然、「あ、古本屋さん行こう」と思い […] -
失われた屋号を求めて
第46回 午前3時の待合室
友人の飼っているうさぎが年始から体調を崩している。換毛期に多い不調で、抜けた毛をご飯と一緒に食べてしまうことが原因だそうだ。その友人が、うさぎを動物病院の夜間診療に連れて行ったときのことを話してくれた。 その日ずっと […] -
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第45回 本を贈る
書店の店頭に、クリスマスのプレゼントを意識した棚をよく見かけるようになった。心なしかいつもより店内が明るく見えるのは気のせいだろうか。 クリスマスシーズンがやってくる。そしてそれは、多くの小売業にとって1年でいちばん […] -
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第44回 神田古本まつり
10月最後の週末、3年ぶりに開催された神田古本まつりに行ってきた。 中止していた間も小規模のブックフェスに何度も足を運んでいたけれど、やはり神田まつりはちょっと特別な感じがある。日にちが近くなると本好きの友人からお誘 […] -
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第43回 変わり映えのない毎日
私の人生には何も起きない。 1カ月に一度、この連載を書くためにパソコンに向かうたびそう思う。毎日起きて、労働して、帰宅して。その間にたくさんの取るに足らないことがあり、特別だと思う瞬間もそれなりにある。けれども、いざ […] -
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第42回 個人的なものとしての死
猫を家族として新しく迎え入れたばかりの友人が、「この子を最期まで看取れるか不安だ」とぼそっと言った。猫の寿命を最大限に長く仮定しても、この子が亡くなる時、私たちは日本の女性の平均寿命にも達していないはずだった。すぐに、 […] -
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第41回 「本を読む人」を見る
先日、出版社のアノニマ・スタジオが主催するブックマーケットが3年ぶりに開催された。 全50ブース・56社が参加する本のお祭り。3年前にはお客さんのひとりとして参加したが、今年はほんの2時間だけ、売り子をすることになっ […] -
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第40回 現実が見える
現実って一体何だろう。子どもの頃、自分と目の前の友だちが交換不可だと気付いた瞬間を思い出す。もしくは自分が「在る」とはどういうことかと悶々とひとり考えていた中学生の自分を。またはもっと美人に生まれていたらと自分の容姿と […] -
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第39回 「趣味」という快楽
これを書いている今も、そしてこの原稿が出る頃も、おそらく私は「カムバ」で忙しい日々を送っている。 カムバック、通称「カムバ」とは韓国のアイドルが新しいアルバムをリリースして活動をすること。日本のアイドルと違って、バラ […] -
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第38回 読むための筋力
筋肉は嘘をつかない。 とはいえ、筋力トレーニング後のパンプアップに対する感慨ではなくて、私の場合は筋肉痛への所感だ。 先日、どうしても1時間以上歩かなければいけない状況に陥った。話し相手がいたということもあり、歩い […] -
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第37回 趣味は何ですか
自己紹介が苦手だ。 4月といえばと思い返してみて、毎年自己紹介が嫌だった思い出しかないくらい苦手だ。当たり障りのない自己アピールの正解を探し続けているうちに学生時代が終わってしまった。 自己紹介がたいてい出席番号順 […] -
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第36回 怖い読書
忙しかったり、予定が合わなかったりと数回続いたのち立ち消えになっていた文芸誌の読書会が、数カ月ぶりに復活した。 コロナ禍に始まったこの読書会はこじんまりとしたもので、参加者全員とそれなりに長い付き合いがある。好んで読 […] -
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第35回 すべる言葉、定着する言葉
友人との雑談の中で、寝ている間に見た夢の内容を忘れてしまうのはなぜかという話になり、調べてみた。 どうやら脳内には「記憶を消去する細胞」があって、その消去する記憶の中に夢も含まれるからという記事が出てきた。まだ数年前 […] -
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第34回 人生のディテール
東京に雪が降った日、電車が動いているうちにと慌てて乗り込んだ車内で、小さな手袋を拾った。 片方だけのそれはピンク色で、ずっしりと濡れて冷たかった。もう片割れは、と目を上げると、入口近くに立つ女の子のリュックの側面のポ […]