「本屋が選ぶ時代小説大賞」をご存じだろうか。「オール讀物」(文藝春秋)が主催し、文芸評論家による1次選考で選ばれた作品を対象に、書店員が選考委員となり「いちばん売りたい一冊」という視点で大賞を決め、毎年オール讀物12月号で発表する形式で運営されている。昨年で12回目を迎えた同賞の過去の受賞作は、いずれもその年を代表する名作揃いである。
読書の7割は時代小説という僕も、第6回から第10回まで選考委員を務めさせていただいた。他の書店員の皆さんと議論を交わした経験は、他では得られない貴重なものだった。
この賞をきっかけに受賞作を知り、読んでみたいと思ってもらうことが目標なのだが、選考委員が「いちばん売りたい」の基準の違い、それぞれの作品に対する読みの深さと考察する視点の違いについて交わす激論がとくに興味深かった。もちろん、嗜好の違いはあるのだが、とにかく時代小説に対する愛に溢れていた。
題材が歴史上どのような結末を迎えるのかを知って読んでいることが多い時代小説では、題材となる人物を徹底的に調べあげ、様々な形で散らばっている題材に関する真実を拾い集め、そこから事実を見つけ出す作業を繰り返したうえで、歴史として残されていない空白となっている部分を補う作家の想像力を楽しむことができる。
候補作も含めた「本屋が選ぶ時代小説大賞」フェアを企画してみたいと思うのだが、自由に展開できる売場をもっていないことが悔やまれる今日この頃です。
(本紙「新文化」2023年1月26日号掲載)