第96回 重三郎に学ぶ

早いもので、今年も残すところわずかとなったので、一年の出来事を振り返ってみた。

私的重大ニュースの第一位は、9年間応援してきたHKT48の松岡はなさんがグループを卒業し引退したことだ。たくさんの元気をもらったことに感謝しつつ、はなさんのこれからの人生が幸多き日々でありますように。

では、業界を振り返ってみると、様々なことはあったが、結局業界は変わらない、ということがわかった一年だった。しかし、不思議なことに「諦め」という後ろ向きな気持ちではなく、違う道を歩んでいこうという清々しい気持ちを抱いている。

そんななか、12月に入り僕の推しの作家の一人である谷津矢車さんの最新刊『憧れ写楽』(文藝春秋)を読んだ。

東洲斎写楽は、巷で囁かれている蜂須賀家お抱えの能役者・斎藤十郎兵衛ではなく、真の写楽がいるのではないかという時代ミステリなのだが、読み進めていくと蔦屋重三郎を描いた本であることに気が付くのだ。いいものを売る版元の大道を歩み続けてきた重三郎の商いへの想いを読むにつけ、出版とは何かを問われている気がした。

作中、「商いに手を染めると、しょうがない、仕方ない、が口癖になる」からはじまる窮地に陥った地本問屋の心境を描いた一文があった。その後に続く言葉をぜひ出版業界に携わる皆さんに読んでいただきたい。出版とは何か、もう一度向き合う時間が得られるのではないだろうか。

来年もどうぞよろしくお願いします。

(本紙「新文化」2024年12月12日号掲載)

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