第12回(最終回) これからのアクセシビリティ

第5回で取り上げた音訳図書(録音図書)の制作は主に点字図書館や公共図書館の主導によるものだが、実際に読み上げているのはボランティアが多いという。音訳だけではなく、点訳や対面朗読などもボランティアによるところが大きいとされる。

ボランティアにまったく頼らないような仕組みづくりは難しいかもしれないが、出版社が主体的にアクセシブルな出版物に取り組んでいけば、通常の紙の本・雑誌と同じように、アクセシブルな出版物を、アクセシブルなサイトやストアで購入したり借りたりすることを利用者に案内できる。読書困難者によるアクセシブルな出版物の利用が増えれば、出版社にとってはビジネスとして成立しうるということになり、対応する社も増え、継続性も生まれる。良い循環が形成されることになるのだ。 アクセシブルな出版物を出しても売れない→売れないからつくらない→つくられないから読書困難者が買えない・読めない→点字図書館や公共図書館のボランティア頼み……このサイクルから踏み出さないかぎり、読書バリアフリーの取組みが出版界で当たり前のものになっていくのは難しいだろう。

一冊の本に、紙版・電子版・音声版があり、テキストデータも提供される。電子版・音声版は書店で買うことも図書館で借りることもできる。サピエにはDAISY版と点字版が用意されている。複数のアクセシブルな版・形態の有無を一度の検索で簡単に調べることができる。これらがすべてそろって初めて読書バリアフリーな環境が用意されたということになるだろう。

すべてが実現されるにはまだまだ課題が多いが、誰もが本を読める、一人の読者も取り残さない、そんな社会を目指して、取組みを続けていきたい。

ただ、特定の社が個別に取り組んでいるだけ、特定の社の出版物がアクセシブルになっているだけ、それでは読書バリアフリー、アクセシビリティが実現されたとはいえないし、それ以上の広がりも期待できない。社や分野の垣根に関係なく、多くの出版物がアクセシブルなものになっている、多くの出版物に複数の選択肢がある。そのような状態が望まれている。

そのためにまずは、知ることから始めるのがいいだろう。何から始めていいかわからない、具体的にどうすればいいかわからない、などの悩みがある方は、本連載で紹介したサイトや書籍などの情報ソースをぜひあたっていただきたい。小学館の事例が多少なりとも参考になりそうであれば、気軽にご相談いただければと思う。紙幅の関係で本連載では詳述することがかなわなかった弊社の取組みについて、ぜひ情報共有、情報交換をさせていただけるとうれしい。

(木村匡志/小学館 アクセシブル・ブックス事業室)
(本紙「新文化」2024年12月5日号掲載)