第36回 三砂さんの問いかけ

「本屋を始めた。次にぶつかる問題は、どうやって続けていくかです」
 梅田蔦屋書店人文コンシェルジュの三砂慶明さんが企画・編集した『本屋という仕事』(世界思想社)を読み出合った言葉だ。
 久しぶりに読み応えのある本屋の考察本を読んだ。本屋の火を絶やさぬように日々薪をくべ続ける書店員たちが語る、本と人とをつなぐ場所の話である。
 定有堂書店の奈良敏行氏の「本屋は焚き火である」という言葉を起点に、「火を熾す」(はじめること)から「薪をくべる」(つづけること)へ、そして「火を焚き続けるために」(読者を増やすこと)へと続いていく、焚き火のリレーのような構成となっている。
 僕もかねてより、本屋を「ろうそくの灯」に喩えてきた。まさに「光明とは智慧のかたちなり」である。火を、灯を、灯し続けるために、本屋を続けるためにできることはなんだろうか。
 本屋を、「本と人が集い直接触れあえる場所である」と考える書店員たちの声に三砂さんが真摯に言葉を重ねていく。本書に収められた18人の言葉に触れた後に本屋という場所に足を踏み入れれば、あらためてその存在価値を知ってもらえるのではないだろうか。
 どのように読むかは読者次第だが、三砂さんは本屋を入り口として私たちが生きる世界に、新しい価値を付け加えるための道標を掲示しようとしている。「苦難の時だからこそ、本屋が生み出す価値」を見つけようとするこの試みは、我々に大きな問いを投げかけていると思う。
(本紙「新文化」2022年6月23日号掲載)

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