第11回 ビジュアル出版物の扱い 出版界の課題(3)

ここまで、さまざまなかたちのアクセシブルな出版物を紹介してきた。電子化・音声化・点字化、またはそれらの組み合わせなどにより、多くのアクセシブルな出版物が用意されるようになっており、読書バリアフリーといった考え方が一般的でなかったひと昔前に比べれば、選択肢は確実に増えている。

だが、すでにお気づきの方も多いと思うが、これまでの取組みは、文字情報が中心の出版物をいかにアクセシブルなものにするか、の範疇にとどまっているのが現状だ。

日本の出版物で、数的にも売上的にも読者層的にも大きな占有率をもつコミックは、電子化こそ早くからされてきたが、紙面のレイアウトを維持したフィックス型が中心で、アクセシブルなものになっているとはいえない。絵本、写真集、雑誌なども電子版はフィックス型で、テキストが多いものもなかにはあるが、自動読み上げに対応していないし、オーディオブック版がつくられることもない。

出版物に含まれるビジュアル要素については、その内容を説明する代替テキストを埋め込むことで、読み上げに対応させようという動きがすでに進んでいる。たとえば、ある本に、写真の図版が含まれている場合、「写真:公園で、3歳くらいの女の子がブランコに乗っている」などの説明が図版の裏に情報としてたされており、読み上げの対象になっていれば、図版を見ることができない読者にも、それが絵なのか写真なのか表なのか、どのような内容で何を伝えようとしているのか、を伝えることができる。

文字要素が主で、図版要素は補足的な位置付けの出版物に関しては、代替テキストの手当を丁寧に行うことで、自動読み上げの際に内容を過不足なく伝えることが可能になるし、オーディオブック版でもそれを読み上げの対象にすれば 視覚情報の脱落をある程度防ぐことができる。ただし、ビジュアルが主であるものについては、この方法だけでは情報伝達の意味では限界がある。

ほぼ全ページが写真・絵の写真集・画集について、ことばで説明が続くだけの版を仮に用意したとして、はたしてそれが「アクセシブルな出版物」といえるのか。これは業界をあげて考えていくべき問題だろう。

文字情報が比較的少ない絵本では、テキストの点字化だけでなく、イラスト部分の点字化の試みもすでになされている。絵を点字や線の凹凸で表す試みで、児童書出版社の集まりである「点字つき絵本の出版と普及を考える会」の参加社から、さまざまな点字絵本が刊行されている。小学館から出ている『さわるめいろ』は人気作品で、複数巻が刊行されている。

(木村匡志/小学館 アクセシブル・ブックス事業室)
(本紙「新文化」2024年11月7日号掲載)