必要とする人に情報が届くには、検索サービスや情報サイトが用意されるだけでは十分ではない。情報を利用者につなぐ・届ける存在も重要だ。公共図書館は読書バリアフリーに関する情報を利用者に伝える重要な役目を負っているが、専修大学の野口武悟先生によれば、現在の司書養成課程には読書バリアフリーについて学ぶ機会がないという。
それは出版界も同じで、現在、読書バリアフリー(法)について問われて、他者に説明できる、具体的に取り組んでいると即答できる出版人がどれくらいいるだろうか。ふつうに出版の仕事をしていても、読書バリアフリーについて知る・学ぶ機会は得られないのだ。
8月に経済産業省が公表した「読書バリアフリー環境に向けた電子書籍市場の拡大等に関する調査報告書」は全国の出版社を対象にした、読者バリアフリー法の認知度他を問う調査で、2700超の社に送られたが有効回答率は12.3パーセントときわめて低い。令和2年度にも調査が行われているが、この間、第1回でふれた『ハンチバック』の件があったにも関わらず、出版社の関心は高まるどころか後退していると取られてもしかたのない状況となっている。学ぶ機会、知る機会がないことがそのまま関心の低さにつながってしまっている。
小学館では21年に「アクセシブル・ブックス推進室(現事業室)」を設置。出版界のこれからを担う人材にはこの分野の知識・意識は必須と考え、新入社員向けの研修テーマに読書バリアフリーを加えている。ほかにも、集英社と共同で社員・関係者向けセミナーを開催するなど、社内の啓蒙にも力を入れている。
作り手の参考になりそうな出版物としては、以下のようなものがある。
(1)宮田和樹・馬場千枝・萬谷ひとみ『アクセシブルブック はじめのいっぽ~見る本、聞く本、触る本~』(ボイジャー)
(2)読書工房編著『読書バリアフリー 見つけよう!自分にあった読書のカタチ』(国土社)
(3)野口武悟『読書バリアフリーの世界 大活字本と電子書籍の普及と活用』(三和書籍)
(4)一般社団法人電子出版制作・流通協議会監修、植村八潮・野口武悟・長谷川智信編著『電子図書館・電子書籍サービス調査報告2023』(樹村房)
「出版社などの企業・団体の一般研修の参考書として活用可能」をうたう(1)は実践的な情報を得たいと考える出版人にとって有用な1冊となりそうだ。
(4)の「2章 電子図書館のアクセシビリティ」では、図書館だけでなく出版界の取組みについてもふれられている。
『出版指標』2023年秋号に掲載された特集記事「読書バリアフリーの現在」(『出版指標年報2024』に再録)も現状把握の参考になる。
ABSCが不定期に刊行している『ABSCレポート』には、読書バリアフリー、アクセシビリティに関する具体的な取組み事例が多く紹介されている。本年4月に公開されたABSCのサイトには同レポート掲載記事が上がっており、今後の充実が期待される。