第34回 運命の出会い

この2年ほど、婚活ブログにハマっている。某ブログサイトの婚活ジャンルのランキング上位のなかから、5人ほど継続して読んでいる。

共通していえるのは、比較的、読ませる文章を書くということ。今は、結婚相談所の他にマッチングアプリも主流だから、SNSを活用している人も多い。短く的確に相手に刺さる言葉を使うことが上手なのだろうなあと想像してしまう。そして、わりといままでモテてきたんだろうなという印象の人が多いのが特徴だ。(まあ、私が読んでいる人だけかもしれないけれど)いきいきとしていて、実際にお相手と会った時のエピソードなんかが、本当におもしろく書かれている。ほぼ毎日更新されるので、感情移入も半端ない。「こんなにいい子なんだから、早く幸せになれー」と願うのだが、なかなか成婚に至らない。どんなにきっかけがたくさんあっても、運命の人に巡り合うのはそれはそれは大変なこと。これは本も同じ。

数年前、まさに運命の出会いを果たした本がある。ちょうど、EHONS TOKYOがオープンしたばかりの頃だ。次の打ち合わせまで時間がなくて、店内を猛スピードで移動していたら、呼び止められた。編集者のYさんだ。おっとりとかわいらしく、いつもなら私の最大の癒やしなのだけれど、今はゆっくりしている時間がない。すれ違いざま「ごめん時間がないの」という私の言葉に「石井さんの新刊なの」とかぶせてきた。Yさんの方が上手だった。石井睦美さんは、私の大好きな作家さんなのだ。

急ブレーキをかけて立ち止まった私に手渡された校正紙。それが『王さまのお菓子』(世界文化社、石井睦美文・くらはしれい絵)だった。

フランスで新年に祝い菓子として食べられる、ガレット・デ・ロワ(王さまのお菓子)。その中に入れられるフェーヴと呼ばれる陶器でできたミリーという小さな女の子のお人形のお話。切り分けられたパイの中にフェーヴが入っていると、その年その人に幸運がもたらされるという。小さな人形の痛いくらい切ない、誰かを幸せにしたいという想いがギュッと詰まった、王さまのお菓子のように繊細で美しい絵本。最初に読んだときから、絵本の隅々までかけられた幸せの魔法に酔ってしまった。

「これ借りていい?」

Yさんから校正紙を受取り、打ち合わせに走った。もらった熱量そのままに、この絵本のグッズ制作を訴える。1年後、見事EHONSにも幸せの魔法がかけられたのだった。売場でも、多くの人が運命の出会いを果たしますように!

(本紙「新文化」2024年10月10日号掲載)

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