2023年の紙の出版物の販売額減少の理由を、出版科学研究所は「紙の書籍の売上げの落ち込みは新型コロナの巣ごもり需要が収束したのに加え、歴史的な物価高で本の価格が上がり、買い控えの動きが見られることが要因とみられる」としている。
買い控えの動きが見られることによる売上げの減少を実感している出版社各社は、原材料の高騰分をすべて価格に転嫁することに踏み込めずにいる状況となっている。さらには、書店数の減少により、商品を書店店頭で展開し切れず、出版社の倉庫で保管されるケースが増えた。その維持管理費、在庫の増加は現金預金の増加と同じにように所得金額の増加にカウントされることから、品切れ・重版未定とする期間も短くなっているという話も耳にするようになってきた。加えて、損失計上してでも在庫を大幅削減し、財務の改善を図る動きもある。
それは、読者が読みたい時に読めない、欲しいのに手に入らないという世界をつくってしまっていないだろうか、と思ってしまう。その役割は電子書籍でもいいのかもしれないと割り切ることもできるのだが、紙の本が、品切れがなく、欲しい時に手に入る世界がつくれないものだろうか。
必要な時に、必要な分だけ「作り、売り、届ける」ことができれば、それは品切れの無い世界といえるだろう。書籍は本来、息の長い情報伝達の媒体であったはずである。今こそ、在庫レス流通への切り替えを検討する時期だと感じている。
(本紙「新文化」2024年9月5日号掲載)