第10回 若者たちの掌

 NHK放送文化研究所の調査によると、10代から20代の若者の約半数がほぼテレビを見ないという。
 新聞や本と同じように、若者のテレビ離れも進んでいることになる。テレビは若者にとって、日常的に情報を得るメディアではなくなりつつあるのだろう。
 新聞や本やテレビがないと情報を入手できない時代が終わりを迎え早20年が過ぎている。誰でも当たり前にオンタイムの情報をスマホやタブレットなどで知ることができるようになった。
 世界中の未来の急変をリアルタイムで告げる掌の携帯電話の振動。時間を惜しんで掌の端末を眺め続けている若者たちを見て、感じることがある。様々な不安が、強迫観念のように携帯電話の向こう側に意識を向けさせているのかもしれない、と。
 それは毎日毎日、他人の、隣人の、他者の、その地域の、日本の、アジアの、世界のどこかの人の動向が、明日の僕たちの暮らしを変えてしまうかもしれない恐怖なのか。いざとなっても誰からも助けてもらえないという危惧か。人並みや当たり前から排除されてしまう心配や飢餓感か。それは若者に限った話ではないのだけれど。
 この先、10代から20代の若者たちが消費の中心になるとき、どんなツールを活用し情報を得るようになるのだろう。これまでとは違う新しい本との出合いの場が生まれることを楽しみにしている一方で、それを活用する柔軟性をもつことができるのかと不安もよぎる。
(本紙「新文化」2021年5月27日号掲載)

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