第88回 反アマゾン法への布石?

政府が7月25日に実施した「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で、岸田文雄総理は「送料無料表示の見直し」を求める方針を発表した。書店振興プロジェクトチームのリーダーである齋藤健経産相は、3月の会見で、反アマゾン法を含めた海外の事例について「研究する価値はある」と前向きな姿勢を示していることから、政府の送料無料表示の見直し提言が、反アマゾン法への布石かと危機感を覚えている。

 本の販売ルート別売上推移によると、書店ルートが減少し、EC経由での購入は増えているが、それは生活者の消費動向の変化によるものも大きい。ECの商品の選択肢や、予約の確実性、配達のスピードは生活者にとっては利益となっているからこそ選ばれているともいえる。

 ECでの販売を規制し生活者の利便性を下げることが、小規模書店の救済につながるのだろうか。少なくとも規制で保護されるだけでは競争力を生まないだろう。「図書館vs.書店問題」と等しく、規制によってライバルを叩くことは解決につながらない。

 本を購入するルートは、生活者の購買動向の変化に対応する形でより多様化していくことが望ましい。反アマゾン法云々を議論する前に、書籍取り扱いの参入障壁を下げ、新規参入者の拡大を促す方が先である。

 ネット書店が量と規模とスピードを追い求めるなら、リアル書店は質と個性を追求するのが本来の姿ではないのか。ネットはあくまで手段なのだ。リアル店の強みとは何だろうか。

(本紙「新文化」2024年8月22日号掲載)

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