山形県の山間部に位置する、人口約1万1000人の町に住む方から突然連絡があった。
「(前略)先週、中山町唯一の書店がなくなりました。どうしてもこの町に本屋を復活させたいです。地域の仲間とともに小さな規模でもいいから、住む子どもやお年寄りが、本を買える環境を町に残したいと話合いました。一度、ご相談させていただけないでしょうか」という内容だった。
また1つ、無書店地域が増えた寂しさと、住人たちが「町に本屋を復活させたい」という思いをもち、行動に移そうとしていることを知り、嬉しさが込み上げてきた。山間の小さな町で、本屋を維持し続ける難しさは経験上よく知っている。こうした声に少しでも答えることができないだろうか。
書店界の衰退が叫ばれるなか、本に新たな居場所ができつつある。それはともすれば、ずっと昔からあったのかもしれない。その居場所の存在に気づかなかったことが、本の可能性を狭めてしまっていたのではないか。それが、26年間この業界に身を置いてきた僕の率直な想いだ。
全国の2割の自治体には、すでに書店が1軒もない。「書店ゼロ自治体」の数は420を超えている。書店がない地域でもネット書店で本は買えるし、図書館もある。それでも地域の人々が本を通して交流する「まちの本屋」は必要だということを、業界外の方から教えてもらう機会が増えた。今こそ、その声を真摯に受け止めることから始めたい。近々、山形県にうかがう予定だ。
(本紙「新文化」2021年4月8日号掲載)