第8回 その他のアクセシブルな書籍・電子書籍

市販の電子書籍のフォーマットは、多くがEPUB、もしくはPDFだが、それ以外のフォーマットも存在する。

DAISY(デイジー)は、Digital Accessible Infomation SYstemの略で、「アクセシブルな情報システム」と訳される国際的な電子書籍の標準規格だ。テキストDAISY、音声DAISY、マルチメディアDAISYがある。伊藤忠記念財団や日本障害者リハビリテーション協会のように、児童書をマルチメディアDAISYに編集し、全国の学校・図書館・医療機関など希望する機関に無償または実費のみ負担で提供している組織・団体もある。

文字の拡大や色の変更などを行い、見た目や使い勝手を自分の好みに合わせることができ、音声に変換して音で読むことを可能にする電子書籍(リフロー型)。音声だけでなく、デバイスがあれば点字に変換することも可能なテキストデータ。教科書や児童書などに利用されているDAISY。それぞれにできることが違い、長所短所も異なる。大事なのは、読者がこれらのなかから自分に合ったかたちを選べるかどうか、だろう。

読書困難者に本を届ける試みは、デジタル技術によって種類も届ける対象も大きく広がったが、アナログな試みもなくなったわけではない。絵本のように、ビジュアル要素が主である出版物はアクセシブル化が難しいことはこれまでにもふれた通りだが、凹凸で絵柄を表すなど、テキスト部分を点字に置き換えるだけではなく、見えない子どもたちに絵の内容を伝える工夫がされた点字絵本がある。点訳ボランティアによって制作され図書館などで利用されているもののほかに、点字の凹凸を利用した迷路絵本など、点字を使った出版物も市販されている。

弱視をはじめとする様々な読者に有効な出版形態に、拡大図書(大活字本)がある。単に紙面を拡大するのではなく、読みやすいフォント・サイズで組み直してつくられることが多い。読書工房は、2024年4月、児童書の拡大図書のレーベル「めじろーブックス」を新たに立ち上げ、各社から出ている新書判の児童文庫をA5判にした拡大図書の刊行を開始した。大活字文化普及協会や埼玉福祉会では、大人向けの小説の拡大図書を刊行している。

紙面・文字の拡大が自由に行える電子書籍があれば拡大図書は不要ではないかと思われる方がいるかもしれない。GIGAスクール構想で義務教育校には1人1台PCが行き渡り、電子書籍へのアクセスの環境だけは整いはしたものの、晴眼者の子どもたちが図書館で自由に紙の本を手にとるのと同じように、視覚に障害を抱える子どもたちが本を選んだり本にアクセスしたりできるかというと、残念ながらそのようにはなっていない。

ここでもやはり、紙の本・電子書籍・拡大図書といった複数の選択肢から子どもたちが自分に合ったかたちを選べることが重要なのだ。

(木村匡志/小学館 アクセシブル・ブックス事業室)
(本紙「新文化」2024年8月1日号掲載)