第6回 電子書籍のアクセシビリティ

現在流通している電子書籍のフォーマット、EPUBにフィックス型とリフロー型があることは第3回でふれた通りだが、主にビジュアルものに使われるフィックス型では文字組を変えたり、文字要素を抽出したりはできないため、自動音声読み上げにかけることは基本的にはできない。

リフロー型は文字サイズの変更が可能で、画面に合わせて自動的に字詰め・行詰めも調整される。デバイスやOS・アプリなど利用環境にもよるが、多くの場合、文字の拡大縮小、文字色・地色の変更、反転、文字・行単位でのマーキング(ハイライト)などが可能だ。

いずれも、色覚に問題を抱えていたり(色覚異常)、まぶしさが苦手だったり(視覚過敏)、文字の認識や連続した文字列を追うことが苦手だったり(ディスレクシア)する読者の助けとなりうる機能だ。文字要素をテキストデータとして保持しているため、音声合成による自動読み上げにかけることもできる。

電子化の恩恵が最大限に発揮されるのはリフロー型ということになる。

デバイス上の操作で書籍の購入や閲覧が可能になることも、電子化の大きな利点だ。読書困難者のなかには、書店や図書館などに出向き、紙の本を手にとること自体が難しい人や、紙の本を両手で支え、手指でページをめくることが困難な人もいる。オンラインで買ったり借りたりができ、手元のデバイスで読めるようになることのメリットは、身体的な困難を抱えている読者にとっては非常に大きい。

電子化は単に本が紙でなくなるということではない。電子化によって読書困難者が得られるメリットは健常者が考えるよりずっと大きいのだといえる。

本を電子化すること(できればリフロー型で)。電子化した本をオンラインストアで販売するだけでなく、電子図書館に提供して借りられるようにすること。これだけで本を「読める」ようになる読者がたくさんいることを、出版関係者はあらためて心に留めておきたい。

4月には、日本文藝家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブが「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表。読書環境の整備推進に協力していくことが明言された。書き手には電子化に前向きでない人もいるとされてきたことを考えれば、今回の共同声明は、出版界だけでなく、広く表現に関わる世界において、非常に大きな前進であり転換であるといっていいだろう。作り手だけでなく、書き手の意識も確実に変わってきているのだ。

(木村匡志/小学館 アクセシブル・ブックス事業室)
(本紙「新文化」2024年6月13日号掲載)