第9回 90年代から起きた紙の漫画への逆風

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、韓国ではIMFショックが、国民所得や文化的支出の減少をもたらした。とくに「青少年保護法」などの政府の規制により、書店店頭での漫画の取扱いや作品の表現自体も、萎縮せざるを得なかった。それに加えて90年代半ばからは、割引販売の加熱により、書店数の減少も起きた。

韓国では本の定価販売が定着せずダンピングが横行してきたが、1977年に出版・書店業界が動き、図書定価販売制(正札制)が業界内協約として成立する。

その後、1980年制定、81年施行の「独占規制及び公正取引に関する法律」(公正取引法)は、再販売価格維持の禁止を定めるも、「大統領が定める著作物については適用しない」という例外規定によって、図書定価制は維持された。その結果、出版業界は80年代に比較的安定した成長を遂げる。

だが、公正取引法の例外条項には法的規制力がなかった。仮に割引販売しても逮捕されるわけではなく、あくまで「出版物は、出版社が定めた定価で小売店に販売させる契約が法的に許容されている」に過ぎない。ゆえに割引販売を盛りこんだ契約であっても、法律上の問題はなかったのだ。

1994年、ソウルのプライスクラブを皮切りに、カルフール、ホームプラス、Eマートなどの倉庫型ディスカウントストア、大型スーパーが次々に現れ、本の割引販売を始める。割引とはいえ、本を大量に仕入れ販売してくれるこれらのチェーンに対し、複数の出版社や総販(取次)は盛んに本を卸し続けた。

こうして値引き販売が再び当たり前になり、定価販売は事実上崩壊した。町の書店も価格面で対抗を試みたが、到底太刀打ちできず、全国の書店数は94年の5683軒をピークに減少の一途を辿る。

この行き過ぎた値引き合戦に対し、2002年、図書定価制が「出版及び印刷振興法」として法制化(03年施行)された。

だがこれは実際のところ、〝オフライン書店不遇政策〟だった。当時勃興したばかりのオンライン書店を擁護する一部の議員が、「割引販売禁止だと存在理由がなくなる」として反対したのだ。その結果、オンライン書店のみ、出版後1年以内の新刊の10%までの割引が許容されることになった。

さらに、出版後1年を経過した書籍は、書店が自由に割引幅を決めて販売できるとした点でも、ザル法というしかなかった。

韓国におけるオンライン書店の嚆矢は、1997年の鍾路(ジョンノ)書籍である。オンライン市場の同年売上高は約5億ウォンだったが、割引や無料配送などをウリに伸長。05年には約5000億ウォン規模となった。

その後登場した代表的なオンライン書店は、YES24、InterPark図書、Aladdin、教保文庫(のオンライン部門)で、この4社だけで半分以上のシェアを占めた。

この時期の漫画出版社からすると、雑誌や単行本を売ろうにも、青少年保護法の影響でオフライン書店は置いてくれない。どころか割引販売の常態化によって、書店自体も減りつつあった。だからこそレンタルショップ「貸与店」への流通は重要だったのだが、00年代にはその貸与店まで、減少が顕在化した。

このような紙の漫画への逆風のなかで、オンライン漫画が台頭してくる。

※なお2014年に施行された「改正図書定価制」によると、オンライン・オフライン書店を問わず、「発売から18カ月以内の新刊書の割引率は、定価の15%以内」(本自体の割引は10%まで)とし、18カ月経つと出版社が定価を変更できる。また2012年の改正で、電子書籍も割引率15%以内に制限されたが、24年1月、政府の国務調整室により、「ウェブトゥーンとウェブ小説は適用外」であることが示された。

(本紙「新文化」2024年6月6日号掲載)

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