スマホでなんでも手に入るこの時代に、紙の本にこだわり頁をめくる時間がもたらす価値とは何だろうか。本屋に関わる仕事しているにも関わらず、忙しさを言い訳に考えることを止めてしまっていた問いである。
大阪に生まれ名古屋で育った石坂優さんは、4年前に新潟県出雲崎町に移住し、古い蔵を活用して本を貸し出す図書館機能と古書の販売の書店機能をもつ空間「蔵と書」を立ち上げた。現在、この4年間の軌跡を、一冊の「本」という形に残すべく、新しいプロジェクトを立ち上げている。
出雲崎町は人口約4000人の町であり、いわゆる〝無書店地域〟である。地域おこし協力隊として本屋がない町で本と人をつなぐ場を創り、今では町内外から「蔵と書」を訪れるお客さまも増えているという。
石坂さんと最初に出会ったのは、2018年8月に名古屋市の七五書店で開催したトークイベントだった。
七五書店のただの客ですが、いいですか? と言い、「本屋を維持していくために必要なことはなんですか」という質問をいただいた。その後の懇親会にも参加していただき、何度も七五書店のただの客ですが、と口にしながら、私も、「本に関わる仕事がしたい」という夢を持っています、いつか実現したいと思っていて、そのために学びながらアンテナを張って、日々を過ごしていきたいと、お話されていたのを覚えている。
「書店の明かりを消したくない」という石坂さんの想いを形にした「蔵と書」の今後の展開が楽しみで仕方ない。
(本紙「新文化」2024年4月4日号掲載)