第72回 目をそらさず議論を

2023年最後の寄稿となる今回は、今年のもっとも重要だと感じたデータを取り上げたい。日本出版販売が「出版物販売額の実態」最新版(2023年版)を発表した。そのなかで、例年注目して推移を追いかけている調査がある。「タッチポイント別 市場規模構成比」である。

現在、読者が本と出合う場所は多様化している。その読者が本と触れ合う接点を〝タッチポイント〟と定義し、それぞれの市場規模をまとめているのが本調査である。

今回の調査結果によると、調査開始から初めて、リアル経由とインターネット経由の出版物の売上げが逆転したのだ。

インターネット経由には、ネット通販と電子書籍が含まれる。リアル経由は、書店およびCVS、駅や生協などでの販売額となっている。図書館と教科書を含めるとまだリアルの方が上回っているが、日常の出版物の購買動向におけるリアル経由とインターネット経由の逆転は、予想されていたものとはいえ、時代の大きな転換点といわざるを得ない。

半面、図書館と教科書の市場規模は減少しているものの微減という状況である。店頭の販売額の減少が、外商の重要性を浮き立たせているともいえる。いまいちど、書店経営における基盤をしっかりと整える必要があり、そのために知恵を寄せ合わねばならない。

リアル書店の存在意義はどこにあるのだろう。2024年は、これまで目をそらしていた本質的な議論が活発化し、本当の意味での「これから書店」が生まれることを期待している。

(本紙「新文化」2023年12月14日号掲載)

著者プロフィールはこちら