この6月に、本連載の原稿も改稿して収録した『「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(本体980円)を、平凡社新書から上梓した。今回は、そこに書きもらしたことを補足的に論じてみたい。
日本の読書推進政策・施策は書籍中心であり、雑誌やマンガは長らく軽視されてきた。たとえば今でも朝の読書では、雑誌・マンガは禁止のことが多い。
しかし、〝朝読〟の理論的支柱となったジム・トレリースの著作を読むと、自由読書の時間には新聞や雑誌など何を読んでもかまわないこと、たとえ書籍でなくコミックであっても、「夢中になって読む」ことが、PISA(OECD加盟国の15歳を対象とした学力到達度調査)における読解リテラシーと、正の相関があると書かれている。
2000年代以降、書籍に関しては不読率が小中高で大幅に改善され、平均読書冊数は小中で激増した。その一方で、何ら手を打たれないままだった雑誌は、小中高問わず不読率・平均読書冊数ともに、ほぼ毎年過去最低を更新し続けている。
しかし出版ビジネスにとって、高校生までの読者に対し、定期刊行の出版物に触れる習慣を作っておくことは、非常に重要なはずである。
学校図書館は、「学校図書館法」によって設置義務があるため、どの学校にも必ず存在する。図書館は授業でも使うから、高校までは多くの児童・生徒は、日常的に本に触れる機会がある。卒業後は書店か図書館にでも行かない限り、本に触れる機会は少なくなってしまうが、それでも定期的な来店・来館の動機を作りやすいのは、書籍よりも雑誌だった。
筆者が最近の出版業界に関するニュースを見ていて問題だと感じるのは、議論が「書籍を読む人をどう増やせばいいか」に集中しがちなことだ。戦後の出版産業は雑誌中心で回っており、毎週・毎月刊行される雑誌こそ、読者の強力な来店動機を作り出していたはずである。近年、そのことが忘却されてしまっていると思えてならない。
またGEOやTSUTAYAのようなレンタルビジネスとの複合型書店が、かつて大きな力を持ちえた理由も、早くも忘れられているようだ。レンタルCDやDVDを借りれば、返却の義務が生じ、結果、強力なリテンション機能をもつことができた。
雑誌が凋落し、レンタルビジネスが退潮したことで、多くの人々が書店に定期的に行く動機を失った。そして書店でコンスタントに買い物する機会が減るとともに、衝動買い、ついで買いも減ってしまった。
毎日新聞社の「読書世論調査」と文化庁の「国語に関する世論調査」を経年で追うと、日本人(16歳以上)の平均読書量は、この数十年ほとんど増えもせず減りもしていない。外部の環境がいくら変わろうが、高校生以上になると、人々の書籍を「読む」量の変動幅はきわめて限定的になることがわかる。
一方で、出版市場の規模の推移を見れば自明だが、変化の幅が大きいのは(とくに雑誌を)「買う」量と金額だ。書店への来店回数は、「買う」に至る前提のひとつなのである。
この事実を見据えるならば、出版社と書店はただちに、子どもの読者に対する雑誌の読書推進をはじめる必要がある。そして「読む」のみならず、「買う」「行く」にフォーカスした施策にも、もっと力を入れる必要がある。
(本紙「新文化」2023年6月29日号掲載)