連載マンガの最終回は、後世まで語り継がれることが多い。しかし、どういうわけか、私はそれらの記憶が抜け落ちている。物語が始まる冒頭や、なんてことない1コマはくっきりと思い出せるのに。きっと終わりだけを重要視していないのだろう。
ものごとの良し悪しは、あくまでもその瞬間、その場での話だ。長い目で見れば、結果的に良くなったり悪くなったりもする。
それは小説も然りで、名探偵により一件落着した物語も、実はその後、逆恨みした犯人が名探偵を崖から突き落としているかもしれない。
様々な困難を乗り越え、愛し合うふたりが結ばれる感動のハッピーエンドも、いざ結婚生活が始まったら性格の不一致で、あっという間に離婚するかもしれない。
だから、この連載が終わることが、私にとって幸か不幸かは、今の時点では何とも言えない。
毎回楽しみにしています、と声を掛けてくれた人もいるが、その後に始まる連載がもっと面白くて、前の連載が終わってよかった、と思うこともあるかもしれない。だからすべての出来事は、自分にとって良いこととも悪いこととも言い切れないのである。という詭弁を弄して、この長々と続いた連載を終わりたいと思う。またいつか、どこかで。
(新井見枝香)
(本紙「新文化」2023年6月29日号掲載)