「新井さんは2頭身だな、ハハハ!」顔が小さく、スタイルの良い8頭身の踊り子・Aさんを褒めるために、たまたまステージ上で隣にいた私が引き合いに出された。
特段顔の小さくない私を、その対比として大げさに「2頭身」と表現したのだろう。Aさんは私の先輩にあたるため、わかりやすく持ち上げることで、その場を盛り上げたかったのかもしれない。
だが、発言から3日経っても気分が悪かった。そのことで、自分が思っているより顔の大きさをコンプレックスに感じていることを自覚し、それがまた自分を悲しい気持ちにさせるのだ。
「○○より面白い」ある本を褒めるために、他の本を引き合いに出す表現は、書評やPOPで見かけることがある。私はそれを、本の面白さを伝える人間として、絶対にしないと決めていた。
○○が面白かったからそれを超える本も読んでみたい、と思う人もいるかもしれないが、面白かった本が否定されたようで、悲しい気持ちになる人もいるだろう。
どんな本にも、その本を特別に思っている人がいる。書いた人、編集した人、売った人、読んだ人。踏み台にしていい本など、一冊もない。そしてそれは、人間も同じことだ。私を便利に使わないでほしい。
(新井見枝香)
(本紙「新文化」2023年6月15日号掲載)