選書に参加したフェアが気になって、三省堂書店神保町本店の仮店舗に行き、うっかり手が引きちぎれるほど本を買ってしまった。
《本は持ち運び可能な魔法です。》と掲げられた看板の下には、「持ち歩きたい本」をテーマに選書された本が、特製の巾着「ほんぶくろ」に入れられ、中身が見えない状態で棚に並んでいた。選者のコメントを読んだり、その場にあるおみくじを引いたりして、気になる袋を手に取る。フェアは好評のようで、いくつか品切れの札が立っていた。
好きな作家の巾着を選び、ついでにと、文芸書がある2階に上がると、どうせ間に合わせだろうと思っていた棚には、しっかりとあるべき本が納まっている。あれもこれもとカゴに放り込み、興が乗って地下へ下りると、これがまた(仮)とは思えない、書店員の個性すら感じられるコミック売場が出来上がっていた。
(仮)の状態で、志を高くもつことは難しい。期間限定の棚を耕すのは、なんだかもったいないと思ってしまう。
だが、本店を名乗って営業を続けるのなら恥ずかしくない棚で、という強い意志が感じられる、立派な書店だった。ビル建て替え後の開店は2025年。まだまだいい書店になりそうだ。
(新井見枝香)
(本紙「新文化」2023年6月1日号掲載)