4月某日。久々に出張以外で新幹線に乗っていた。目的地は岩手の新花巻。大沢温泉での「鬼ヶ島通信」の合宿に参加するためだ。「鬼ヶ島通信」は新しい子どもの本の世界の構築を目指す雑誌で、佐藤さとるさんが始められた。今は編集長の那須田淳さんを中心に児童書出版界の有志で引き継いでいる。
初日は作家の柏葉幸子さんによるアテンドで宮沢賢治記念館などをまわり大沢温泉へ。夕方からメインイベントの創作道場の審査会だ。創作道場とは応募作品を作家さんや編集者さんが講評をするという贅沢な企画。鬼ヶ島に参加させていただいて8年。忙しさにかまけて審査会をパスすることも多かったが、今回は本当に頑張って31篇読み込んで臨んだ。
道場は現役の作家や編集者にコメントをもらえるのが応募者の醍醐味だと思うのだけれど、私にとっても審査過程をまるごと体感できる貴重な時間だ。作家さんは「もっとこうした方がいい」というアイディアだったり、編集者さんは構成の部分への指摘だったり、立場によっても視点が違うのが本当に面白い。よりいい作品になるよう真剣に創作の話をするのは、絵本や児童書について議論するのとはまた違う新鮮さがある。
2日目も柏葉さんの素晴らしい引率で効率よく観光ができた。(総勢16名の大人たちをまとめあげた手腕はお見事!)とくに2年前『岬のマヨイガ』(講談社、柏葉幸子著)の舞台を拝見してからずっと行きたかった遠野に来られたことが嬉しかった。河童やおしらさまなどの息遣いが感じられる風景に大興奮! 東京でゆっくり見れなかった桜も東北が早咲きだったおかげで堪能できた。なにより、みんなとリアルで過ごせた時間が本当にキラキラしていて、やっと日常が帰ってきた気がした。
河童に会いたいと意気込んでいたのだが叶わず、かわりにざしき童に会った。飲み会を終えて、興奮冷めやらなかった4人で夜更けまで話し込んでいたのだけれど、夜中3時ごろ、ふと「一人多い」と感じたのだ。5人いる! でも湯呑は4つ。怖いとかではなく、当たり前にいるなあと思う感じなのだ。ちなみに私に霊感はない。
実は、ざしき童に会うのは2度目。今回合宿にゲスト参加されており、一緒に深夜おしゃべりに花を咲かせていた作家の石井睦美さんのお宅で腿の辺りをトントンされたのだ。大沢温泉にざしき童はいないらしいので、睦美さんの家から一緒についてきたのではと睨んでいる。そんな不思議な現象もなんとなく受け入れてしまう夢のような旅だった。
(本紙「新文化」2023年5月11日号掲載)