第28回 読者層広がる「~銭天堂」、絶妙なバランスで中学生も取込む

廣嶋玲子「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」(偕成社)は、小学生だけでなく、いまや中学生にも人気のシリーズだ。とはいえ小学生と中学生では当然、読書に求めるものが異なる。だから同じ作品を読んでも、反応する部分は違うはずである。

一般的な傾向として、小学生にも中学生にも、ホラーは人気だ。ただ小学生の場合は、幽霊や妖怪など「現実に存在しないもの」が恐怖の対象になることが多い。それに対して中学生になると、怪異は怪異でも、いじめなどの身近な人間関係や、人の悪意など負の感情に由来するものが増える。

また、小学生はガジェット(モノ)や動物に興味をもつが、中学生では人間の感情や内面に関心が移っていく。「銭天堂」は、その両方をカバーしている作品なのだ。

たとえば銭天堂の店主・紅子のライバルキャラである「よどみ」は、人を騙し弱みに付け入る、いわば悪意の塊だ。姿こそ幼女だが、ちょっとしたいたずら心のような無邪気さはなく、つねに何とか人を貶めようというドス黒い欲望に駆られている。

その内面は、思春期女子のいじめっ子に見られるような容赦のなさ、性格の悪さを感じさせる。よどみは実在しない怪異だが、と同時に、思春期の少年少女が同年代との付き合いで日々遭遇するような、リアルな悪意や攻撃心ももっている。

一方、主人公・紅子の店にやってくる人々の欲望を満たす不思議な力をもつ駄菓子は、「ドラえもん」の<ひみつ道具>同様に小学生の想像力をかき立て「自分でも考えてみたい」と思わせる。

ただしそれらの駄菓子は、使い方を誤った人を恐ろしい目に遭わせるものでもある。少なくない登場人物が、欲に駆られて用法を誤った結果、絶体絶命の危機に陥る。そしてその部分には、中高生が読書に求める「人には言えない本音の吐露」がある。

この物語はそもそも、内容的にブラックな展開で以前から「小学生向けとは思えない」との定評があった。それゆえ中学生が読んでも面白いのは、当然といえば当然なのだ。

また、同作がソフトカバー単行本であることも功を奏している。今は中学生でも、児童文庫を読むのは珍しくない。一方で下児童文庫は子どもっぽいと感じて、敬遠する向きも一部にある。その点、「○分後~」というタイトルの短篇集(の多く)と同様のつくりの「銭天堂」は、小学生・中学生を問わず、多くの子が買いやすくまた読みやすい。

「銭天堂」の内容的なエグさ、登場人物の身につまされる内面描写は、中学生でも十分惹きつけられるが、文章は総ルビかつ平易だ。物語の内容を大人も読めるものにすると、とかく文体や言い回しも大人向けに寄り、少数の本好きにしか刺さらない本を作ってしまいがちだが、「銭天堂」はそれをうまく避けている。

今の中高生の多くは、一部の成績上位層以外、それほど難しい本を読みたいとは思っていない。ただしあまりに子どもっぽすぎると嫌がられる。これらの条件を絶妙なバランスでクリアしたのが、「銭天堂」だといえるだろう。

(本紙「新文化」2023年4月27日号掲載)

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