退職届を記入し、有休を消化するのみとなった。しかし「本を売りたい」という気持ちは、変わらずにある。
それを強く認識したのは、この3月から始まったネットラジオ「Audee」(東京fm系)の配信番組「元・本屋の新井、スナックのママになる。」に、1回目のゲストとしてお招きした増山明子さんの存在が大きい。
日比谷コテージの閉店から数カ月後、雇ってほしいとお願いしに行った明正堂アトレ上野店で、閉店が決まったことを知らされたのである。同店に務める増山さんが嘆き悲しむ間もなく、閉店作業に忙殺されたことは想像がついたが、ふと、どうしているだろうと思った頃に、彼女が閉店までの日々を綴ったnoteがupされた。
青天の霹靂のように働く店を失った書店員は、どうやってまたやる気を取り戻していくのだろうか。本が売れるよろこびを味わった我々は、中毒のように書店業から離れられない。あんなに楽しいことはないのである。
番組で話すと、本を売り伸ばしていく喜びが思い出され、今それができない状況を、お互いもどかしく感じていることがわかった。
元書店員は今後、またレジを打つことができるのか。それとも、別の関わり方を見つけていくのか。今は楽しみでしかない。
(新井見枝香)
(本紙「新文化」2023年3月16日号掲載)