満員のライブハウスで、久しぶりに腹の底から声を出した。「ウォー!」と叫んで、みんなで拳を突き上げる。コロナ感染拡大防止のための観客による声出しの規制が緩和されたのだ。
コロナとともに始まった無観客有料配信ライブに引き続き、今回も同時に配信が行われたが、それすらも時代の進化だと思えるほど、気持ちの明るい夜だった。
その数日後、都内のとある場所を訪れたのは、『月の立つ林で』(ポプラ社)を上梓された青山美智子さんと、対談をするためである。
通された会議室は控室ではなく、ここでトークイベントを配信するようだ。ライブの記憶が新しく、勝手にお客さんの前で話すのだと思い込んでいた。
対象書店で本を購入、という条件にもかかわらず、リアルタイムで多くの方が参加してくださり、配信画面の横側には常にコメントが流れ、読み上げられないほどの質問が寄せられた。
少しずつ変えた形が並ぶ月齢表のような連作短編集は、とくに「新月」が重要なテーマだ。
見えないけれど、確かにそこにある。いないけれど、確かにそこにいてくれる。私には、この本にとって「配信」という形式が、これ以上なく憎い演出に思えたのだ。
(新井見枝香/HMV&BOOKS SHIBUYA)
(本紙「新文化」2022年12月22日号掲載)