道後温泉にあるストリップ劇場は昼間、うどん屋として営業しているらしい。温泉客は宿で食事を摂って夜の街へ繰り出すから、営業開始時間が遅いのだ。それまでの間、別の業態で場所を活用することは経営を助けるし、地元の人や観光客に、劇場という場に親しんでもらうきっかけにもなるだろう。
先日私は、おなじように夜から営業する、あわら温泉の劇場で踊っていたのだが、普段は営業していない土曜日の昼間に、地元の人が企画したトーク&サイン会があり、ステージの上で本について話をしたのである。
あわら温泉について書いたエッセイや、地元が舞台の小説についてトークし、福井・大野市のカドヤ書店さんが場内に作ってくれた本のブースで関連書籍を販売するという内容で、当日は2階まで埋まるほどの大盛況だった。
昨今、イベントを開催できる書店が減っていると聞く。場所の確保はもちろん、スタッフ不足や集客の不安など、原因は様々だろう。特典のために一人が何枚も購入することもあるCDのイベントとは違い、本の利益はそれほど期待できない。
しかし書店と、有効活用したい場所が力を合わせれば、双方に利益をもたらすイベントが開催できるかもしれない。
(新井見枝香/HMV&BOOKS SHIBUYA)
(本紙「新文化」2022年6月30日号掲載)