第63回 猫と本

 10日間ほど仕事で家を離れることになった。行き先には、同居している黒猫のくーちゃんを連れて行くことができない。
 困って友人の千早茜に相談したら「なるべく小さき生き物の負担にならぬように」と、くーちゃんの生活の場を変えずに、通いで面倒を見てくれることになった。
 出発の前に我が家を訪れ、トイレ掃除の仕方や、水の換え方などをチマチマと手帳にメモをした彼女からは、まるで獣医か研究者のように、うんちの状態や行動を記録したLINEが、写真や動画とともに送られてくる。
 くーちゃんも友人が気に入った様子で、すっかり気を許し、腹を見せていた。動画を何度も再生しながら安堵し、自分にそっくりだと笑う。しかし10日ぶりに再会すると、くーちゃんにある変化が見られたのである。
 稀に乗るくらいだった私の腹や腰に、隙あらばよじ登り、降ろそうとすると必死に抵抗するのだ。たった3キロしかないはずなのに、子泣き爺のように重い。お手洗いに行くのも一騒動だ。
 またいなくなることを心配しているのだとしたら、大変申し訳ない。だが、温かい茶を淹れ、腹に乗ったくーちゃんの背中を撫でながら読書する時間は、何ものにも代えがたい幸せだ。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2021年12月9日号掲載)