第62回 これからのイベント

 千早茜さんとの共作エッセイ『胃が合うふたり』の刊行に合わせて、日比谷コテージでは観客席を設けたリアルイベントを、版元の新潮社主催ではオンラインイベントを、それぞれ別の日に開催した。
 徐々に増えつつあった音楽ライブやトークイベントのオンライン化だが、コロナ渦でずいぶん一般的になったように思える。
 私自身、以前ほどは抵抗なく楽しめるようになった。
 最近では、自宅にいながらにしてバーチャルの渋谷を散策し、開催するイベントにも参加できるプラットフォームもあるそうだ。過密になりがちな都市のコロナ対策としては素晴らしい試みである。
 だが、外に出ないのなら、渋谷で化粧品や洋服を買う必要はない。街でそれらを買い求めるのは、その街を歩くことを楽しむためであり、部屋の姿見に映すためではない。他者の視線はリアルにしかないのだ。
 演者側は、観客の目があるとないとでは出てくる言葉が変わり、観客は、聴く姿勢が変わる。自宅で音楽ライブを観て、あれほど熱く興奮することはないだろう。
 しかし、じっくりと耳を傾けることができる。必要に迫られてどちらかを選ぶのではなく、より豊かに充実させるために、両方開催できたらベストかもしれない。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2021年11月25日号掲載)