三浦しをんさんの小説『ののはな通信』(KADOKAWA)が文庫化した。あれから3年の月日が経ったのだ。私は当時、今とは別の書店で働いていた。
仕事帰りに単行本を買って、喫茶店で読み始めた『ののはな通信』は、同じ女子校に通う「のの」と「はな」が交わした手紙だけで物語が進む。それはふたりがすっかり大人になって、別々の人生を歩むまで続いていくのだ。
ふたりだけが知るはずの強い愛情を、純度100%で読んでしまった。私は今までと同じように生きてはいけるだろうか。
それほど強い衝撃を受けた特別な本が、文庫化する。このタイミングで、当時は別々の書店で働き、同じ本を読んでいた店長の花田菜々子と、販促ペーパーを作ることになった。彼女は『ののはな通信』が新井賞を受賞したと知って、手に取ったそうだ。
私は彼女のツイートで、同じ思いを共有した人がいると知った。この人とだけは、いつか小説について話をしたいと思ったのである。それが3年越しで叶う。
ペーパーは書簡形式で3往復。毎日のように顔を合わせていても、手紙をやり取りせずにはいられなかった女子校時代の「のの」と「はな」みたいに、手紙だからできる話をした。書店員を続けていて、良かったな。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2021年7月15日号掲載)