第50回 日用品と生活必需品

 我が勤め先の日比谷コテージは、「御書印プロジェクト」に参加している。神社や寺院を巡って集める御朱印のように、書店を巡って御書印を集めるのだ。
 レジで御書印帖を受け取ると、押印した横に「本は日用品です。」と必ず書く。
 売場に立つ人間の感覚として、バーンと段ボールで入荷して、バンバン売っていく感じが、まさに「日用品」なのだ。本は薄利ゆえ、そうでなければ商売として成り立たない。
 ところが先日SNSで、私が御書印帖に書いた言葉に、別の解釈をしている人を見つけた。
 《本も日用品だから、緊急事態宣言下であっても、書店の営業時間短縮や休業はしないでほしい》
 その人は、仕事を終えてから、百貨店の中の本屋に立ち寄ることを習慣としていたのだ。
 対象地域の百貨店は、生活必需品を扱う売場のみ営業し、それ以外のブランド品フロアなどは休業している。厳密に言うと、私にとって本は「日用品」であるけれども「生活必需品」ではない。
 しかし人によって、その線引きは違う。それはきっと本だけじゃない。声を大にしては言えないが、自分にとっての必需品が手に入らず、不便に思っている人はいるのだろう。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2021年6月3日号掲載)