先日、都内にある健康ランドで、今年初めての天然温泉に浸かった。
自宅から気軽に行ける場所に、こんこんと温泉が湧いている。もっとおしゃれでラグジュアリーなスパもあるけれど、私はここのしょっぱくて力強い湯が肌に合うし、湯上がりに縁日みたいなかき氷を食べてもへっちゃらな保温効果には、毎度感動してしまう。
立派なステージを併設した畳敷きの大宴会場では、食事処として、酒のつまみや定食、パフェやかき氷を提供している。柔道の全国大会みたいな広さに、お客は数人だけだ。
館内着でメニューを広げていると、スタッフが閉店時間の繰り上げを知らせに来た。22時ではなく20時で、アルコールのラストオーダーはすでに終了したとのこと。どうりで人がいないわけだ。そそくさとかき氷を平らげて、帰路に着いた。
近所の鰻屋の前に必ずいる、顔なじみの猫と遊んでから帰ろうと思ったが、早々に灯りを消した店の前に、猫の姿はない。猫に緊急事態宣言の意味はわからないだろう。
チュールを片手にしばらく探したが、隣の居酒屋も早仕舞いで、街灯もない路地は、死んだように静かだった。家に帰って、持て余した時間で読書を始めるも、猫のことが気になって仕方がない。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2021年1月21日号掲載)