第40回 ハムの人

 毎年、お歳暮にハムのギフトを贈り続ける人がいる。「ハムの人だ!」のテレビCMでもお馴染みだ。自分で買い求めるほどそのハムが好きでなくても、目まぐるしく変化しすぎる時代のなかで、変わることなく繰り返される恒例行事は、妙に心を和ませる。年末に届くいつものハムが、気付けば楽しみになっている。
 それは贈る側も同じで、毎年同じ頃に同じデパートへ行って、目新しい商品に目が移りつつも、やっぱりいつものハムを贈らずにはいられない。必ず相手に喜んでもらえるからだ。
 何の話かと言うと、店に展開する本の話だ。先日、店長との雑談で、どうも私は「ハムの人」タイプであることが判明した。確かに、同じ作家の新刊が出るたびに、同じ場所で大きく展開することが多い。
 対して店長は「目新しさ」を求める傾向にあり、私のやり方には「またかよ!」と飽きてしまうらしい。今までの上司には「売り飽きるな」「長く売り伸ばせ」と言われてきたのだが、「もう飽きた」と言われたのは初めてだ。
 売場の作り方に絶対の正解はない。だが、お客にも両方のタイプがいると考えるべきだろう。私だって、ハムしか知らないわけではないのだ。さて、来年は何を贈ろうか。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2020年12月24日号掲載)