第36回 これからの書物

 3月に予定していた大好きなロックバンドのLIVEが、新型コロナウイルスの影響で開催が延期になり、もうさすがに中止か、と諦めかけた10月、ようやく振替公演が行われた。これほど長引くなんて、誰が想像しただろうか。
 時を同じくして、イベントを自粛していた書店も、徐々に動き始めている。オンラインサイン会やトークイベントの配信はあれど、できることなら、モニター越しではなく「直接会いたい、話を聞きたい」という願望が、人々から消えることはないのだろう。
 『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(ぶんか社)は、著者の竹内佐千子さんがイケメンに会いに行くコミックエッセイの最新巻。タレントと直接会えるイベントが、コロナのせいで軒並み中止になる前までを描いている。「今だったらありえない……。」と震えながら読み進めると、やはりコロナ後の加筆があった。
 タレントと接触するイベントは、今後開催できなくなるかもしれない。そうなれば、この本が存在する意味自体も変わってしまう。コロナ後に出版される現代小説も、コロナを抜きにして書けば不自然になり、物語の筋を変えねばならないかもしれない。たとえ感染拡大が収まっても、書物への影響は長く尾を引くのだ。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2020年10月29日号掲載)