SNSでの告知や宣伝は、タイミングが大事だ。草木も眠る丑三つ時より、テレビで言う「ゴールデンタイム」を狙ったほうが、基本的には人の目につきやすく、広く共有されやすい。
それは新刊の発売も同じで、世の中が不安定で暗く落ち込んでいるタイミングを、あえて選ぶ人はいないだろう。発売直後の反響は、今後の売行きや増刷に大きく影響するからだ。しかしSNSのように、いったん保存して、タイミングを窺うことなどできない。
著名人が亡くなったり、どこかで自然災害が起きたりすると、自分とは直接関係がなくても、そのタイミングでの喜ばしいニュースは何とも間が悪い。とくに新規開店とか、試験に合格したとか、誕生日を迎えたとか、めでたさが個人的であれば尚更だ。たとえ誰かが非難することはなくても、喜びを自粛してしまうものである。
だが、負の感情を煽るような情報ばかりのなかに、情勢を気にしつつも、タイミングの悪さを恨まず、たくさん悩んだであろう言葉で、控え目に喜びを発信しているのを見つけると、逆に応援したくなるのだ。もし、自分が不安や不幸の渦中にいたとしても、少なくとも私は、それを見て嫌な気持ちになどならない。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2020年4月9日号掲載)