会社の忘年会、新年会、歓送迎会の類いが苦手だ。面倒だし、楽しくないし、大して美味しいものにもありつけない。前の会社では、常に強硬な態度で欠席を貫き、自動的に幹事の役からも逃れてきた。
だが、ついに私も年貢の納め時。店長の花田菜々子が、粗相をした私に小言を並べた直後、「そうそう、新年会の幹事よろしくね」などと続けた。それはもう【使えない部下を上手にコントロールする方法】的な本にでも書いてありそうな、見事な心理技だった。
「見枝香なら美味しいお店を知っていそうだし」などと上手く乗せられれば必死になる。コテコテの円卓と本格的な四川料理の店を予約した。小籠包やエビチリを円卓いっぱいに並べ、「見枝香にお願いしてよかった~!」などと大げさに持ち上げられればまんざらでもないが、どうせそうやって次の幹事も押し付けるつもりだろう。その手には乗るか。
しかし、円卓を囲むみんなの笑顔を見ていると、なんだか一家の大黒柱になって、食卓を囲む子どもたちを眺めているような幸福が胸を満たすではないか!
また幹事をすることもやぶさかではない、という気持ちが湧かないでもない。シシシと笑う花田の顔が目に浮かぶ。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2020年2月13日号掲載)