第2回 ドレスと文学

 先日開催された服飾文化学会の大会で「デルフォス」という名のドレスに使用された、特殊な生地についての研究発表があった。
 博物館に勤めるその女性は「デルフォス」が一般家庭に所蔵されていると聞けば自ら足を運んで調査する。日本製の可能性が高いとわかれば、当時の輸出状況を元に推論を立てる。それでも「正解」とするには、気が遠くなるほどの論証が必要であろう。
 と、知ったように書いたが、私は洋服にとんと疎い。しかしその発表はエキサイティングで、ロマンを感じさせるものであった。その場では、作家の千早茜さんが服飾を題材にした小説『クローゼット』(新潮社)を執筆した関係で、専門家との特別講演も行われた。「デルフォス」の生地に正解はあるが、小説にはない。
 だが、対象に並々ならぬ愛情を持ってにじり寄る興奮は「デルフォス」に引けを取らない。この場ならではの、知的かつ文学的なトークが繰り広げられたのだった。
 スクリーンに映されたドレスの詳細を、専門家が記録のために作成する無駄のない文章と、小説家が豊かな言葉で表現する贅沢な文章とで見比べる感動を、書店で開催するトークイベントでも味わえたら。いいヒント、いただきました。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

( 本紙「新文化」2019年5月30日号掲載)