第1回 ご報告

 よりによってエイプリルフールが三省堂書店の最終出勤日だった。ツイッターでの報告は信じてもらえず、会う人会う人に真相を尋ねられた。そこで気になったのが「辞めちゃったの?」という言い回しだ。事情を聞く前から否定的である。私は「辞めちゃった」のだろうか。
 冷蔵庫のプリンを「食べちゃったの?」は、食べたことを咎めているようだし、髪の毛を「切っちゃったの?」は、似合っていないのだろうか、と不安にさせる。私はこんなにもワクワクしているのに。美容院から笑顔で帰ってきた人に、余計なことを言って何になるだろう。本人がいいと思っているなら、モヒカンだって五分刈りだって褒めてあげれば良いではないか。
 先日出演したテレビでは「元カリスマ書店員」と紹介されて、モヤッとした。まるで引退したみたいである。「元検察官」の弁護士や、「元モデル」の妻なら、「元」が現在の状況に箔を付けるが、「元会社員」の無職だと思われるのは大変不本意なのでここで改めてご報告させていだきます。
 5月からHMV&BOOKSで書店員として働きます。現役の書店員として連載も続けますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2019年5月16日号掲載)