第3回 ないないない

1階から6階までの全てが本屋だなんて夢のようである。子どもの頃、休日に父親と八重洲ブックセンターに行って、くまなく棚を見てまわるのが好きだった。つい先日まで、私はその思い出に近い大型書店で働いていたのである。

しかし今はワンフロアで、CDや雑貨が少なくない割合を占める書店にいる。1学年が6組まであるマンモス小学校から、生徒が少なすぎて1年生と2年生が一緒くたにされている教室に転校してきたようなものだ。それだけ規模が違えば、ないものを数えたらキリがない。

レジが3台しかない。シュリンカーがない。自動釣り銭機がない。配本がない。追加が入らない。それはどうしようもないことだ。なければないで、なんとかする。あるというありがたさにすぐ慣れてしまう傲慢な短所は、ないことにもあっさり順応できるタフな長所でもあったのだ。

小回りが利くこの規模感は、私の性にも合っている。昨日何が売れたのかを、私は1冊単位で毎日把握したいし、その本が棚にあるのかないのかを、聞かれたら即答できる書店員でありたい。この店ならそれができる。

しかし私のキャパシティは想像以上に小さかったようで、今はレジ締めのやり方を覚えるのに必死である。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2019年6月13日号掲載)