「読書推進活動は、高校生までは「本を読む」こと自体を促すものが主流である。一方、大学生に対する主たる読書推進活動では、研究したりレポートを書いたりするための本の探し方、読み方、使い方や図書館の活用を学ぶことを念頭に、推進することが中心になる。
2008年以降、文科省が学士課程教育において、アクティブラーニングの促進を打ち出した。それに応えるべく、大学図書館は「ラーニング・コモンズ」と呼ばれる場所を設置した。これによって大学図書館は「グループでの利用・対話が可能な学習支援空間」機能を有するようになった。
だが、OECD加盟国の15歳を対象とした学習到達度調査「PISA」の09年度のアンケートでは、「学校の学習のために本を借りる」経験について、日本の生徒は44・8%が「まったくない」と回答していた。
結局、ラーニング・コモンズのようなハコだけ用意したところで、やり方がわからなければ「研究・探究のための読書」など、できるはずがなかったのである。
この結果を受けて各大学は、2010年代以降、初年次教育を急速に拡大させた。多くの大学では1年生を対象に、基礎過程でレポートの書き方などを扱い、図書館の使い方を教えるようになった。
さらに中等教育と高等教育のつながりを強める目的で、小中高でも探究学習のための読書・図書館活用を、それまで以上に謳うようにもなった。
にもかかわらず、全国大学生協連の調査では、大学生の読書量や不読率は悪化している(ちなみに、生協連からデータを借り受けて分析した濱島幸司氏によれば、学生の読書習慣の有無とスマホ利用時間にはほぼ関係がなく、「スマホ普及のせいで本を読まなくなった」という俗論は退けられている。(「図書館雑誌」19年11月号参照)。
筆者は前回書いたように、「そもそも大人になると半数は本を読まない」ことにはどうしようもない部分があると考えるし、〝大学全入時代〟には必然的に「大学生の半分は読まない」に近づくのは避けがたいことと捉えている。したがってこれ以上、学生向けに「学修のための読書推進」をやっても、不読率低減はなかなか難しいのではないかと思われる。
一方で、高校まで盛んだった自由読書、個人的な楽しみのための読書の推進活動に関しては、学生向けであれば、まだ多少、改善の余地があるだろう。
大学生協主催による「読書マラソン」がその代表例だ。近年ではほかにビブリオバトルなどもあるが、いずれにせよ「本好き」ないしは「すでに読書習慣をもっている」人向けの企画が目立つ。「いま読んでいない人に読んでもらう」施策は、手薄なのである。
そんななかでいま必要なのは、「いまは読んでいないけれど、かつては読んでいた」人に向けた、大学の入口と出口における施策ではないか。 まず入口では、「受験勉強のために読書習慣が途切れてしまった大学生に『趣味の読書』に戻ってきてもらう」、「大学生になって新しい趣味を持ちたいと思っている現・不読者を、読書へと誘導する」ための工夫。出口では、「就活も卒論も終わった4年生に、読書に戻ってきてもらう」ための工夫--この2つに的を絞った施策は、社会人になって以降の読書の継続に対しても、大きな意味をもつはずだ。
(2022年11月24日更新 / 本紙「新文化」2022年10月27日号掲載)