第21回 大学生の読書習慣への施策、〝半数押さえれば成功〟前提に

 「大学入学以降、遊びほうけていて勉強しない」などと、〝大学のレジャーランド化〟が批判されていた1980~90年代の大学生より、「文科省の指導で講義の出席率が厳しくなり、昔よりまじめになった」といわれる今の学生の方が、実は本を読まない。
 これは直感とは異なるようだが、大学生協連の調査を見る限り、統計的には事実である(もっとも出席を厳格化した結果、学生が読書に割く時間が減ったことが要因の一つである可能性もあるが)。
 ただ読書世論調査などを見ると、日本では長きにわたって大人も4~5割は本を読まない。大学進学率が上昇して〝全入時代〟になり、入試制度が多様化したことで、今や大学生も大人と変わらない状態になった--それはつまり(前回も書いたが)、「本を読まない人でも大学に入学するようになった」だけなのではないか。
 本を読まない半数の層に対しては、読書推進施策をやったところで、強制力をもたなければおそらく効果がないと思われる。彼・彼女らは読書以外の娯楽や学習方法に時間を費す生き方をする人間として、すでに「できあがっている」からだ。
 たとえば、生まれつき読み書きに難がある発達性ディスレクシアの人だけで、人口の数%いるといわれている。また文字からよりも、人と話すことや動画から情報を得るほうが学習効果が高いという、認知特性をもつ人もいる。そして当然、読書以外の活動の優先度が高い人もいる。そういう人たちに読書を薦めても、現実的には望み薄だろう。
 では、小・中学生の不読率が低いのはなぜなのか。それは全国の小・中学校は朝読の実施率が8割以上、小学校では図書の時間があるからだ。
 一方、高校生の不読率が改善されない大きな要因は、高校では中学に比べて朝読実施率が半減する、つまり強制的に読まされる機会が急激に減るからである。大学生や大人の不読率の高さも、結局は読書に対する強制力が何もないからだろう。
 「学校外読書」に限定して訊いた東大とベネッセによるパネル調査と、読書の場所を限定して訊いていない学校読書調査とを比較した猪原敬介氏の研究では、前者の不読率が小学生で1割、中学生で2割も高く出ていた。
 筆者は個人的には、「そもそも大人の半数くらいは、強制されなければ本を読まない」という前提、もしくはある種の割切りをもって臨んだ方が、高校生以上に対する読書推進活動は効果的・効率的になると考えている。
 その代わり、大学卒業までの間に「大人になっても、本を継続的に読む可能性のある半数を確実に押さえる」ようにする。つまり「半数の人に確実に読書習慣をつけてもらえれば成功、その半数の平均読書冊数を増やせれば大成功、それ以上の成果はおまけのようなもの」ぐらいにとらえて施策を練る方が、労力に費やすコストとリターンが見合うのではないかと思う。
 そういう観点から、近年の日本における大学生に対する読書推進施策を見ていきたいと思う……のだが紙幅が尽きた。詳しくは次回で。
(2022年10月27日更新  / 本紙「新文化」2022年9月29日号掲載)