第33回 カラフルな変化

18歳から今日まで、私の髪は美容師をしている高校の同級生に託している。少しクセがあり毛量が多い私の髪も、彼女にかかるとなんとかなるから不思議。結婚式のヘアメイクももちろんお願いした。髪型ひとつで生き方が変わるくらい、私にとっては本当に大切。彼女はずっとその変化を見てくれていた人だ。芝居の本番前に思い立って自分で髪を切ってしまい、どうしようもなくなって、夜中に彼女の家に駆け込み、処置してもらうというような迷惑も何度かけたことか……。美容師さんは聞き上手なイメージがあるけれど同級生という気安さも加わり、彼女と話す時間は私にとって癒しの時間。2カ月に1回、溜め込んでたいろいろを吐き出し、身も心もスッキリさせてもらうのだ。

昔はもっぱら恋バナだったけど、最近は仕事の話ばかり。彼女は自分で経営している美容室の他に、最近は資格を取って介護美容の仕事をしている。本当に、すごい人なのだ。

「でもさ、いくつになってもきれいでいたいって思うこと、大事よね」

本当に、そう思う。最近は、退化するばかり。人の名前も思い出せないし、体力だって落ちてる気がする。40歳になったばかりの頃は、「え? 中年ってこんなもん? 全然20代と変わんないじゃん」って思ってたけど、どうやら私もふつうに年を取るらしい。だけど、そんな私も実は進化してる。強力なまつ毛美容液と出会って(彼女に教えてもらったのだ)、コンプレックスだったまつ毛が驚くほど伸びたし、必要に迫られて動画編集とかもできるようになった。ちょっとずつだけれど、心も身体も栄養を吸収して、退化と進化が同等くらいになるといいんだけどな。

りんごを食べたら赤に、レモンを食べたら黄色にからだが染まっていくしろぶたくん。『なにをたべてきたの?』(佼成出版社、岸田衿子文・長野博一絵)は、食べたものによって起こるカラフルな変化が愉快だ。うっかり食べてはいけないものを食べ、痛い目を見ることもあるけれど、変化が起きると毎日が楽しい。

「今日はどうする?」

鏡越しに彼女が聞く。全幅の信頼で、いつもは「おまかせ」というところなんだけれど、今日は冒険したい気分。希望を伝えると彼女が笑顔で「いいかもね」と鋏を持つ。どんどん変わってゆく、鏡に映る自分。

「新しいトリートメントが入ったんだけどさあ。これが本当に良く……」
「買う!!」

食い気味に答える私。明日からの変化が、また楽しみだ。

(本紙「新文化」2024年9月5日号掲載)

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