近年静かに広がっているシェア本屋やシェア図書館を運営する方々のお話をうかがう機会が増えた。まちに本屋が在ることの意味や意義を、あらためて考えるきっかけをもらっている。
知人が、岩手県盛岡市の介護施設と図書館を融合させた「フキデチョウ文庫」というユニークな施設の立ち上げと運営のサポートをしていた。行政の制度に頼らず、自然発生的な地域の世代間交流から生まれるコミュニティの中心に本を活用している。この活動が身近にあったことが、シェア図書館に興味をもつきっかけだった。
シェア書店の代表的な事例は、震災からの復興を目指す地元の有志が立ち上げた「石巻まちの本棚」だろう。本屋あるいは本のあるスペースを作り、コミュニティを生み出そうと考えている方に、まっさきに紹介している。地域の方々が参加しやすく、「本がある場所が近くにあって良かった」と、さりげなく感じさせる場があると教わった。
大阪市阿倍野区にある古書店「みつばち古書部」は、100個の箱が並ぶ日替わり店主制の古本屋だ。それぞれの棚に置かれている本から、棚を借りているのはどんな人なのだろうと自然に考えてしまう。
字数の関係で多くを紹介できないが、いま、このような試みが全国に広がっている。それぞれが、様々な特徴を持っているのだが、共通している考え方が一つある。
それは、地域に溶け込み、地域の一部としての共益性をもち、無理せず、身の丈であることだった。
(本紙「新文化」2021年3月11日号掲載)