第4回 本を音で読む・前編

出版物の音声化には、大きく分けて、人が読む方法と、音声合成を利用する方法がある。前者には、主に出版社が刊行し、ストアで販売され、一般読者が楽しめるオーディオブックと、主にボランティアにより作成され、公共図書館・点字図書館などで障害当事者向けに貸し出されている音訳図書がある。

オーディオブックは、音楽が主でない音声コンテンツの総称。本を読み上げたもののほか、講演・落語・ドラマCD(ボイスドラマ)などもオーディオブックとして販売されている。広義には、CDを同梱した本などパッケージ商品も含むが、現在は通常、ダウンロードやストリーミングで聞くタイプのものを指す。

オーディオブックの作品数と利用者が増えたのはこの数年のこと。スマホとワイヤレスイヤホンが普及したことで誰もが簡単に聴ける環境が整ったことに加え、移動や家事の時間など、紙・電子を問わず本だと難しい〝ながら〟が可能なことがタイパ重視の風潮に合致したのも良かったのだろう。2022年には「オーディオブック」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたことも記憶に新しい。

映像化と違い、通常は内容の変更・翻案などをせずにそのまま読み上げる。英語圏にはすべてを読み上げた完全版〈unabridged〉と簡約版〈または要約版・省略版 abridged〉の両方が出ているものもある。

そのままといっても例外はあり、「右の表では」などと文中の位置関係を示す表現が出てきた場合、音だけでわかるかたちに読み替えたりもする。図版類は通常省略され、PDFなど別ファイルにしてダウンロード・閲覧できるようにしている書籍・ストアもある。一人の読み手が読み上げる「朗読」が基本だが、登場人物ごとに別の読み手をあてて読み分けた(群読と呼ぶことも)作品もある。

プロの読み手が読み上げたものを制作会社が録音・編集・加工(読み間違いの修正、ノイズ除去など)して完成となる。1冊の総再生時間は数時間になり、10時間を超えることもある。主要なストア・アプリは倍速再生に対応していて、再生速度を1・2倍、1・5倍などと切り替えて、好みの速度で聞くことができる。2倍速、3倍速などで聴くユーザーも現在ではめずらしくない。

単品販売〈アラカルト〉と、月額・年額などの利用料を払うと対象作品が自由に聞ける聴き放題〈サブスクリプション〉とがあり、併用しているストアもある。

オーディオブックは、読書困難者に特化したサービスというわけではない。障害の有無にかかわらずに楽しめるものなのだが、現在のユーザーの多くは健常者だとされる。なぜ障害当事者の利用者が増えないのかというと、いくつかの課題が見えてくる。一つはコンテンツが少ないこと。もう一つは配信ストアのサイト・アプリが十分にアクセシブルなものになっていないことだ。

(木村匡志/小学館 アクセシブル・ブックス事業室)
(本紙「新文化」2024年4月11日号掲載)