第73回 業界と界隈

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。新年最初の寄稿ということで、今年の抱負と目標を記しておきたいと思う。

 昨今、本を地域コミュニティのツールとして活用しようという動きや、新たに本屋をはじめようとする人たちが増えている。これまでの出版業界が「大きな出版業界」であったなら、今ある枠組みを越え、新しい本と本屋を通じたコミュニケーションをつくろうとする取組みは「小さな出版界隈」といえよう。

 大きな出版業界は2023年、大きな変革期を迎えた。これまで本格的に改善に取り組んでこなかったことで生じた構造上の問題を背景に、商環境の変化が顕著に現れた一年だった。

 独立系書店を含むプロダクトアウト型書店や古書併設書店、異業種・異業態を兼ねた書店、棚貸書店などの「小さな出版界隈」は、売上規模は小さいが関係人口は飛躍的に増えている。今後さらに増えてくると予測されるなか、大きな出版業界の商習慣やルールが、小さな出版界隈の足枷になっている現状を変える必要がある。

 もちろん、大きな出版業界の維持について、これからも変わらず取り組むことは重要だが、今後は「小さな出版界隈を支えるインフラ」を整備することが、本のタッチポイントを増やすことにつながると僕は考えている。

 大きな出版業界の商習慣を打破し、まったく新しい発想で本とのタッチポイントを創造する新規参入組が現れることを切に願う。

リアル書店の存在意義はどこにあるのだろう。2024年は、これまで目をそらしていた本質的な議論が活発化し、本当の意味での「これから書店」が生まれることを期待している。

(本紙「新文化」2024年1月11日号掲載)

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