2023年3月28日に、第五次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が閣議決定された。
筆者は基本的に第四次までの同計画は、2000年代以降の小中学生の読書(書籍)のV字回復や、高校生の不読率低減に貢献したとして肯定的に捉えている。そのうえで、ここでは今後のためを考え、あえて批判的にその中身を検討していきたいと思う。
まず大きな問題点は、「計画」を策定するうえでの読書観が、相変わらず書籍偏重である点だ。何が問題かを明らかにするため、これまで日本の読書推進政策に大きな影響を与えてきた、PISA(経済協力開発機構=OECDの生徒の学習到達度調査)の「読解リテラシー」テストを見てみよう。
このテストに「テキスト」として含まれるのは、文章のみのものに限らない。書き言葉(キャプションなど)が含まれる図表、写真、地図、表、グラフ、コマ割りマンガなどの視覚的表現、またはハイパーリンクやメニューなど、電子媒体のナビゲーション機能を利用するよう設計された、ウェブサイトのようなオンラインテキストも含まれる。
それらを単一情報源としてだけでなく、時には複数情報源として用いて情報を探し出し、理解し、評価・熟考することが求められる。それが今の時代を生きていくうえで、当然必要になる能力だと、OECDが考えているからだ。
ところが第五次計画を読んでも、視覚的表現を含むテキストやオンラインテキスト、あるいは複数情報源を前提とした読解リテラシー向上のための施策は、ほとんど見当たらない。
読解の習熟度に対して、動機付け(興味・関心と内発的動機付け)は、強力な変数であることがわかっている。マンガでも雑誌でもウェブテキストでも、「好きなもの」に取り組むのが、読解リテラシーにとって重要だということは、以前から指摘されてきた。にもかかわらず日本では依然、書籍偏重の読書推進政策がとられているままなのだ。
それでも、電子書籍や読書バリアフリー法を踏まえたアクセシブルな書籍についての言及が増えたのは、一歩前進といえる。
しかしやはり第五次計画においては、PISAの質問調査で指摘されている「『読みの困難』が読解力スコアに関わる」という点が、無視されているといわざるを得ない。全人口の数%程度いるとされる、生まれつき読字が不得手な「発達性ディスレクシア」などについての言及は、ひと言もないのである。
「小学生の不読率を2%以下に」などという前にまず、<読みの困難>をもつ人たちがいったいどれくらいいるのかの実態把握をするべきだ。読書推進活動や読書環境整備においては、視覚障害者はもちろんだが、目は見えても字が苦手な人の存在も、前提として考えるべきである。
文字、書籍、紙の本、単一情報源に重きをおいた読書観は、いまの時代にも子どもたちの読書の実態にも即しているとはいえない。また人間の多様性も踏まえていない。
5年後に策定されるはずの第六次計画は、これらの偏りが修正され、さまざまな読書の有りようが肯定されたうえで、読書を促進するものとなるよう望みたい。
(本紙「新文化」2023年6月1日号掲載)