新規の出店が続いている。とは言っても私はほとんど何もしていなくて、頼もしい各店児童書精鋭メンバーが奮闘している。児童書の統括チーフなんて肩書がついているくせに、もっぱらEHONSに時間を取られている私は、メンバーからのメールで事態を共有している。今日も後輩からメールが届く。日程の調整から、研修内容、今後の進行にいたるまで事細かにわかりやすく書かれている。簡潔で無駄のない彼女からのそのメールに感慨深くなる。
7歳下の彼女との出会いは、ジュンク堂書店新宿店のオープンに遡る。当時19歳、つやつやプルプルで桃のようにかわいかったので、「ももちゃん」と呼んでいた。接客業経験者だったので愛想はいいし、物覚えも良かった。ただ、びっくりするほど日本語が下手だった。児童書担当で回覧している連絡ノートには見たことのない漢字や、とっちらかった敬語表現満載の文章が並ぶ。始業すぐ、まず赤ペンで添削するのが私の日課だった。
人って大人になってもこんなに成長するんだなということを体感したのは彼女をずっと見ていたからだ。今や私にとってなくてはならない存在。メールの文章だって隙がない。アルバイトで入ってきたかわいい女の子が、いまや、丸善ジュンク堂書店の児童書を引っ張る社員として活躍している。本当に頼もしい。
「明日私が死んでも困らないような仕事の仕方をしてね」彼女に繰り返し言っていた言葉だ。そのせいではないだろうが私なんかいなくても、丸善ジュンク堂書店の児童書は安泰だ。さみしくもあるし、たまに余計な口をはさむけれど、お陰様でいろいろなものを手放すことができ、新たな仕事にチャレンジさせてもらっている。
私は長女で妹がいるが、妹の出てくる本を読んで思い浮かべるのは彼女だ。かわいくってかわいくって……ついつい過保護になってしまうことも多くあった。きっとこんな姉の愛情を理解せず、うるさいなあと思っているはずだ。石黒亜矢子さんの『いもうとかいぎ』(ビリケン出版)のように妹(後輩)たちで集まって会議を開き、姉の文句を言っているに違いない。
数年前、関西の同僚が出張で一緒になった彼女を見て「ちょっと前の理恵ちゃん見てるみたい。無駄な動きが多いところとか」と言っていた。「7年後、無駄な動きが億劫になるよ。今のうちに明日自分が死んでも大丈夫なように環境を整えなさいよ」先日会議で彼女のキリッとした横顔を眺めながら、私はやっぱり小うるさく心のなかで呟いてしまうのだった。
(本紙「新文化」2023年4月6日号掲載)