JR芦原温泉駅は今、2024年春の北陸新幹線開業に向けて、大きく変わろうとしている。駅前にビジネスホテルが建ち、駅内の施設にはカフェや特産品を売る店が入るようだ。
北陸新幹線は金沢から敦賀まで進む予定で、その敦賀駅前に一風変わった書店がオープンした、と聞けば、足を延ばさずにはいられないのが本好きの性。敦賀駅を降りたらすぐの場所に「ちえなみき」はあった。
ガラス越しに芝生を望む吹き抜けのスペースには、背の高い棚が迷路のように配置され、所々に閲覧席やベンチが、ゆったりと組み込まれている。独特のカテゴライズは、人間の様々な「知」をイメージしたもので、それが見る者の知識欲を刺激する仕組みだ。
特定の本を探すというより、自分が何を探しているかを知るために、ウロウロと彷徨う空間だった。ネット書店には太刀打ちできない、リアル書店の倉庫的役割はバッサリ切り捨て、体験型の博物館的な役割に特化している。
そのため、レジカウンターは入口にあるが、滞在者に比してレジに並ぶ人は少ない。そこを補うのが「公設書店」という珍しい形なのだろう。
行政が動き市民の声が反映される新幹線の開業は、リアル書店の新しい形を生み出すチャンスなのかもしれない。
(新井見枝香/HMV&BOOKS SHIBUYA)
(本紙「新文化」2022年10月27日号掲載)