「怪物が出てくる本」で、パッと思いついたのは、樋口毅宏の文春文庫『二十五の瞳』だった。タイトルや表紙からは想像もつかない、ニジコという怪物が登場する。
楽屋で化粧をしている時、同室の姐さんから、よく本について質問を受けることがあった。「青いイメージの本」「アフリカが舞台の小説」「戦時中の女性たちの日常を知りたい」新しい演目のヒントを探しているのかもしれない。その場で答えることもあれば、2、3日待ってもらい、脳内の本棚を片っ端からひっくり返すこともあった。
何でもスマホで調べられる時代に、調べられることを答えても意味はない。「〝容疑者X〟の次に読む東野圭吾」なんて腕が鳴るではないか。書店員の性か、Amazonでは決して辿り着かない本を勧めたくなるのだ。
先日訪れた東京・世田谷区のキャッツミャウブックスは、店主の安村正也さんが集めた猫の本ばかりが棚に並ぶ、唯一無二の猫本屋だった。猫店員さんたちがグーグー眠る静かな店内で、ビールを片手にじっくり棚を眺める。すると「これのどこが猫?」という本が、ちらほら目に留まるのだ。でもここにあるということは、どこかに猫が潜んでいるのだろう。安村さんがレジでニヤリと笑う顔が目に浮かんだ。
(新井見枝香/HMV&BOOKS SHIBUYA)
(本紙「新文化」2022年10月13日号掲載)